クリスマスの思い出

クリスマスと言えば思い出すのはいつも同じ事だ。

それは、もうずいぶん前の事になるが、
この家に引っ越しをする以前のことだから、
20年程にはなろうか。

クリスマスの夜、
お馴染みの患者さんが予約をされた。
仕事を終えてからの予約であるから、
午後8時からの予約だったと想う。

彼はケーキの入った容器とともに現れた。
私が「甘党」で無い事は彼も知っているはずなのに。

ここで、彼の経歴について少しの説明が必要なのかもしれないので、
簡単に述べてみよう。

若い頃は血の気も多く、
かなりの「やんちゃ」をしていたらしい。

碧南の瓦の製造工場での労働の厳しさについては何度も聞いていた。

子供さんは奥さんに養育を任せて、
やんちゃの道に深くはまっていったようである。

その後は、転々と職を変えながら、
やんちゃも続けていた。
50歳の時、一大決心のもと、
組と「水杯」で縁を斬ったつもりでいたようだが、
何かがあれば呼び出しが一方的に来るらしく、
なかなか簡単には縁が切れないとも言っていた。

そんな彼が一人暮らしをしている借家が、
大家さんの住居と向かい合わせになっていたそうで、
雨降りには仕事が無かったりすると、
家賃の払いが滞っていないにもかかわらず、
大家さんの「目」が気になるらしく、
家を空けて「つり」などの、
お金のかからない遊びで過ごしたそうである。

また、組の「若い者」がくれば、気前良くおごってやったりしてた様である。

ざっと書いてしまえばこんな彼ですが、

ずいぶん気の優しい方で、
クリスマスのケーキは、
ご自分の子供さんの事でも思い出されたのか、
街をケーキ片手に家路を急ぐ、お父さんのまねをして見たかったのか、

特大のケーキとともに現れた!
さて!
直径30cmのこのケーキ、
ひょっとして「馬小屋」はウイスキーボンボンでは?
もちろん、違っていた。
スポンジのここなら何とかいけるのでは?
これもペケ!
あれやこれやとケーキを突っつき回してぐちゃぐちゃにしてしまった!!

翌日、
お馴染みの若い女の子が患者さんとしてこられた。
さっそく昨夜のケーキの話を持ち出してみた。
もちろん、悪行?の数々は内緒である。

彼女は大いに喜んで持ち帰ってくれた、
現代風邪に言えば「take off」である!

しばらくして、1月後くらい、
彼女が現れた!
「どうでしたか、あのケーキ?」
「おいしかったわぁー」
「私一人でぜーんぶ食べちゃったの」

うへぇー、
話を聞いただけでも気分が悪くなってしまった。

ケーキのお話はこれでおしまいであるが、
そのご彼は、

阪神・淡路大震災 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%98%AA%E7%A5%9E%E3%83%BB%E6%B7%A1%E8%B7%AF%E5%A4%A7%E9%9C%87%E7%81%BD

の、夏頃、
もう震災からかなり月日が経っているのにもかかわらず、
高層建築物のクラック・ひびの修復作業のために神戸へ行くからとの挨拶を残して岡崎を去って行ってしまった。
その別れのおり、
ダンヒルの高級なライターを私に、
「長い間世話になった」と行ってプレゼントしてくれた。

その歳のこんな時期、
私は18歳から48歳まで続けていたタバコを止めたのですが、
彼が置いて行った「ダンヒルのライター」は大切に机の引き出しに保管している。

そして、
彼がひょっこり現れる日を待っている私がいる。